Der Arzt

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そこは港町。イル氏は医者。海の見える丘で小さな診療所を開いていた。診療所といっても患者は殆ど来なかった。来ないと言うよりも、そこに診療所がある事を誰も知らなかった。イル氏の隣にはいつも妻が寄り添っていた。彼らは若くして結婚し、その頃イル氏は大きな病院で働いていた。そして数年前にイル氏の医学的成功によって莫大な富を手にし、兼ねてから願っていた暮らしを実現した。海の見える町での二人きりでの暮らしは幸せだった。イル氏は他に何も必要ないと感じていた。ただ愛する妻と海の事ばかり考えて毎日を過ごしていた。そのためイル氏は医学を少しずつ忘れていた。彼の医学的成功は癌の治療に関するものだった。彼の考えだした治療法によって癌が原因で死ぬ人は殆どいなくなっていた。彼は大きな富と名誉を手にした。その功績の証として手にいれた賞状やメダル、トロフィーを眺める事が毎日の日課になっていた。幸せだった。 だがある日そんな暮らしが変わった。妻が突然体調を崩したのだ。彼女は毎日朝から晩まで嘔吐し、高熱に襲われていた。ひどく汗をかき、数日のうちに髪の毛は全て抜けてしまった。イル氏は焦った。彼には何が原因か全くわからなかった
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