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僕たちの出会いは、ロッカーの中だった。
お互いに人間に忘れられ、ずっと暗いなかで過ごしていた。
何もすることがなく、ただただ日々を過ごしていた。
ある日、僕はしゃべれる様になった。
何故かは分からない。
それよりも君と話がしたい。
「もしもし、聞こえますか。」しばらく返事はなかった。
でも、君は口をあけた。
「きこえるよ。あなたは誰。」
僕は嬉しかった。
生まれて初めて会話というものをした。
「僕は携帯電話。失礼かもしれないけど君の名前を教えてくれないかな。今までずっと気にしていたんだ。」僕の言葉に嘘はない。
人間に忘れられてから同じ時間を過ごしたんだ。
気にしない訳がない。
「あなた携帯だったのね。うーん、言ってもいいけど、笑わないでね。」僕はすぐさま答えた。
「笑わない。笑うもんか。」君は迷っていたのか、すぐには答えなかった。
でも君は考えた後に言った。
「私はえんぴつなの。えんぴつって言ってもわかってくれないかな。今はシャーペンが主流だしね…。」
君は今にも泣き出しそうな声でつぶやいた。
でも僕は分からない。
えんぴつという物がどのような形をしているのか、どんな時に使われるのか。
それでも1つだけ分かる。
「泣かないで。お願い泣かないで。僕は無知だから分からないけど、1つだけ分かるから。それは………。」
それから、僕らは昔の事を話しあった。
毎日話しあった。
ただ残念なことがある。
しゃべれる様になったのはいいけど、君の姿を見ることができないのが悲しいな。
ロッカーの中は暗くて寒いけど、なぜかそれが今では温かく感じる。
byたっプリン
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