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あれは俺が小学5年生の夏の事だった。
夏休みも終わりが近づき友達は宿題の処理におわれはじめ帰る時間が段々と早くなっていた。
ラスト3日にもなると
「悪い、宿題終わってないから無理」
などと言いだした。
家にいてもする事が無い上に親の手伝いをさせられそうだ。
せっかくの休みに親の手伝いなんてごめんだ、という訳で町中をうだうだと歩き回っていた。
車の行き交う町中、クラクションがあちこちから響く。
中心から少し離れた住宅地、車の通りはほぼ無い。
住宅地の中を歩いて行くと駄菓子屋と公園が有る。
「ここか…最後に来たのはいつだったっけ」
昔母さんによく連れられて来た場所だ。
「おばちゃんこのアメとそっちのアイスちょうだい」
このアメ玉も母さんにせがんで買ってもらった物だ。
「あの鉄棒、逆上がりが出来た時は嬉しかったな」
「あのブランコは……母さんに背中を押して貰ったっけ」
「母さん母さんってなんか俺マザコンみたいだな」
「あの日以来ここには来なかったのに…なんでだろうな、今になって」
あの日公園の帰り母は死んだ。
よそ見運転の車から俺をかばって。
「そういえば墓参りにも行ってないな」
父は自分からは母の話をしようとしない。
「夏休みも後2日か…今更だけど行こうかな墓参り」
あの夏から俺と父は毎年墓参りに行くようにした。
父も少しずつではあるが俺の小さな頃の話や母の話をしてくれるようになった。
あの後駄菓子屋と公園は取り壊され団地になった。
あの時あそこへ行かなければ父も俺も墓参りには行かなかっただろう。
きっとあの時俺をあの場所に導いたのは…
byビッグそら豆
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