英雄の影

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そしてそのまま部屋を出ようとした時に 「駄目!」 という声が聞こえ、その場で止まる。 声の主はミウだった。 ミウはリュウから絵を奪い返し、これでいいのだと何度も何度も説得した。 「し、しかしミウ……様。それはただの落書きで……」 「暖かい。何だか絵本を読んでいるみたい」 右隅の例の落書きの正体。 それは一時期絵本を描こうと思い作りだした、ムイという生物だった。 人々の夢を覗きに行く事が大好きで、悪夢を退治しに行くという設定のソイツは、ピンクの体に紫のパジャマという何とも不格好な姿だった。 それをどう気に入ってくれたのかは分からないが、嬉しい事に違いはない。 普通の紙の上でならの話だが。 「もっと、もっと貴方の絵が見たい。勿論普通の絵も」 キラキラとした目に見つめられ、断れる筈もなかった。 それ以前に断る理由もなかった。 此処で絵を描ける。 その事実がとても嬉しかった。 「私からも宜しく頼むよ。ミウがこんなにも何かに興味を持ったのは初めてなんだ」 がしっと握手をされ、リュウは住み込みで絵を描くこととなった。 必要な物は全て用意してくれるとのこと。 これほどいい条件が他にあるだろうか。 否、ない。 その日からリュウは芸術家兼ミウの遊び係になったのだった。
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