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息苦しさと相まって消え入りそうな意識の中、このまま朝の訪れにも気付かなかったことにして身体ごと掻き消されてしまったら、どんなに楽になれるだろう。
香奈がそう願うも虚しく、散乱の極みを呈した小部屋の様子は入り込む日の光に連れ立って、次第に露になって行った。
不意に、枕の端に縋り付いていた香奈の手に柔らかで温かい感触が襲う。
厚みのある、大きな掌がゆっくりと香奈のそれを包み込み。
生気すら遠退いた白い指先からその股へ、するりと何の躊躇いも無しに温もりを溶け込ませて行った。
ついさっきまで穏やかな寝息を立てているのだと思っていた存在が、今やはっきりとした意志を持って這い始めている。
枕に向けて目を見開いた香奈は、音も立てずに唾を飲み込んでその指先の行方を窺った。
だが、しかし。
香奈が気を張り巡らすより早く、掌はそこに停まったままでもう片方が遊び始める。
香奈の汗に濡れた髪へ男の割に厚ぼったい唇を押し当て、未だ蜜の残り香を残す奴の右手が、自分に背を向けたままで微動だにしない肩を引き寄せた。
それでも開こうとしない胸を強引に割り、艶やかに張りを浮かべる白い双丘の間へ長い睫毛を閉じたままの顔を埋(うず)めた。
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