『departmental lovers.』

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  「……やっ」  か細い声で震えるように哭いた香奈に、長い睫毛は顔の位置を変えずにその視線をじっと据える。  ねっとりと、やや高めの室温を纏って執拗に向けられ続ける視線に脅しを受けた香奈の身体が、漸く力を逃がした。 「……どの辺が、嫌だって?」  強張った顔色のままで。  合わせることすら気後れする様な視線を必死に逸らし、香奈は何の用も無いサイドテーブルを見詰めた。  使うあての無いメモ帳と筆記用具、回線の有無すら不確かで古めかしい電話機。  まだ長さを残したままで揉み消された茶フィルターの煙草、と、それを無造作に乗せ置いた硝子製の灰皿。  全く何の意味も持ち合わせない小道具に意識を集中させることで、香奈は目の前で始められようとしている行為を他人事にしてしまいたかったのだ。  だが、その努力さえ甲斐無く。  奴がその双丘のうちの一つ、更にその突起を口に含んだ途端、そこから爪先へと一気に駆け巡る波を感じた。  その波は刹那と呼ぶより早く香奈の下半身を走り抜け、生半可な現実逃避さえ無かったことにしてしまう。    奴は、それを舌先で甘く玩(もてあそ)んでいたかと思うと、時折、子供の悪戯みたいに歯を立てる。  そうかと思えば、香奈の肩口を冷ややかなシーツへ押し当てていた腕を逃がし、まるで十代のそれの様に丸みを残した腰をなぞる。    
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