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「……もう、今日辺り補充しなきゃならないの分かってんだから、倉庫の奥の奥になんて仕舞い込まないで下さい……」
型通りの労いの言葉を掛けた初老の女性に向かって、香奈は顔も上げずに不平を漏らした。
「やっぱ若い子は体力有って良いわねー」
「林さん……」
早速荷物の梱包を解きながら感心したベテラン販売員に遠い視線を向けつつ、ふと目の端に映った青いエプロンに気を留める。
見れば、プラスチック製の巨大なバットから次々と新たな商品を並べている中年の男。
皺一つ無いラップ越しにも分かる、鋭く角の立った刺身の柵はたった今捌いた鮮度の証。
威勢の良い声を張り上げ、男は手早く、且つ整然とそれを並べて行く。
対して、今朝アイロンを掛けたばかりなのに早くも皺の寄ったブラウスの襟を直しながら、香奈は一息に疲労を吐き出した。
「……タフだなぁ、芳賀さん」
売り場の隅で一人ごちたつもりの台詞に気付いたのか、空になったバットを担ぎながら、芳賀はさも得意気に香奈へ向けて親指を立てて寄越した。
「誰がタフだって?」
こちらもすっかり空になった段ボールを畳みながら、歳の割りにやけに色艶の良い肌色の林の顔が香奈と同じ方向を見詰めた。
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