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「……芳賀さん。今月休み無いんでしょ? 元気だなぁ、と思って」
あぁ、と分かった風に頷いた彼女はついでに足元で散乱していた紙片達を拾い上げた。
それは、忙しさに負けてきちんとごみ箱へ捨てきれなかったシールの破片や書き損じたメモの塊で。
「休みが無いだけならまだしも……月末は家にも帰れないって」
「げぇ。なんで?」
売り場を横目に通り過ぎる客へ会釈をしながらも、ここらとは数倍も客の入りが異なる芳賀の売り場を林はぐるりと見渡した。
「クリスマス以降は寿司と刺身の予約注文、それ以外にも発送の荷造りでしょ、年末年始の市場や業者の休みに合わせた仕入れ計算、富國(フコク)側との打ち合わせ。それから……まだ有るわよ、あいつらの仕事は」
「……へぇ、お忙しいのね。富國お付きの魚屋さんともなると」
他人事ながら、耳にするだけで呆れ半分になってしまう仕事量に茫然としつつ、香奈は売り場の内側へと姿を消す青いエプロンを目で追った。
「何たって年末は一日の売り上げが一千万を越えるらしいから」
「ほぇー……」
緩慢な動作で新たに積み上げられた商品を整頓しつつ、ふと辺りを見回す。
目に付くのは、人波の中で大小を問わずとも大半の客が手にしている紙袋。
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