せみ

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あの夏の日の出来事が本当のことだったのか。 そんなことなんて次第に私の記憶の片隅に追いやられて行った。 あの事故から何度かの年を重ね、また夏がやって来た。 徐々に自然が減っていく。 森林伐採。温暖化。砂漠化。 様々な環境問題が叫ばれる。自然保護を訴える世界中のお偉いさん方。 しかし状況は改善される様子もない。 海の向こうでは絶えず戦争が起こっている。 私には別世界の絵空事のようにしか感じられない。 幼い頃に転んで膝を擦りむいた痛みのほうがよほどリアルだった。 その傷をえぐられているような気がしなくもない。
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