家族

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日曜日、塾帰りの恵ちゃんと部活帰りの僕と依子を乗せて、親父の車は雪山を登った。 絶え間なく降り積もる雪が、音も光も吸収して、とてつもなく静かだ。   「恵ちゃんは若女(若松女子高校)受けるんだっけ?」   エンジン音も聞こえない車内に、親父は言葉を投げかけた。   「そうですね。高校から、一人暮らし始めるんですよ。」   恵ちゃんが明るく答える。   僕や恵ちゃんが暮らす山奥の集落にはバスも来ない。 雪深い冬の間、平日は中学校の敷地内にある寄宿舎で過ごすのが通例だけど、僕の体のこともあって、親父の車で登下校していた。 高校となれば、カレンダーの違う僕に合わせる訳には行かない。 分かってはいたけれど、いざ、言葉になって耳に飛び込むと、戸板の隙間から北風が吹き込むみたいに、鋭く痛い。   「そっか。春から恵ちゃんいないのか。寂しいもんだね。」   ヘッドライトが照らす牡丹雪を眺めながら、ボソリひとりごちた。   「嬉しいこと言ってくれるね。お世辞としては上々だ。」   恵ちゃんのご機嫌な声も寂しそうに聞こえるのは、僕の気持ちが見せる幻かな。
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