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乗組員のひとり、確か名前は・・・岸川拓也――私と同じ日本出身の少尉――がそう申し出てきた。彼は下のエリアを担当している。あそこからここまでこの短時間で走ってきたのか。少し息切れしている。
「駄目よ。」申し出を一蹴する。
「着弾まで20秒!」
「艦長を残して退艦など出来ません!私も一緒に最後まで戦います!」彼の気持ちは痛いほど分かる。
しかし、こちらも艦長として乗組員を全員無事に帰還させる義務がある。「いい?よく聞きなさい。私は全員が退艦して、安全区域に退避するまで艦を離れない。無論、あなたも含んでね。」
「着弾まで10秒!敵ミサイル総数7!」もう時間がない。
「しかし・・・」
「あなたのような優秀な士官を失うわけにはいかないの。あなたが残りの乗組員を率いて脱出しなさい。」
「・・・」岸川は黙ったままだ。しかし、その目には決意がみなぎっているのが見て取れる。
「これよりあなたに全指揮権を委譲します。誰一人死なせないで。」
艦の中央付近にミサイルが着弾する。
爆炎があがるのが、ここから見える。漆黒の闇の中に、爆炎と対空砲の光跡が尾を引く。
コンソールには敵ミサイル第二派の接近を警告するメッセージが表示されている。「これは命令よ!総員退艦しなさい。」
岸川井少尉の目を見据える。
そして、少尉は気持ちを切り替えたのか、直ぐに指示を出した。
「よし!みんな聞いたな?直ぐに持ち場を離れてシャトルに乗るんだ!」
皆、もの言いたげな顔をしながらも持ち場を離れて行く。
「艦長。」少尉が話し掛けてきた。
「どうかご無事で。」
「私の事は心配しないで。」そうは言ったものの、死ぬことは避けられないだろうと悟っていた。
少尉もそれを察したのか、何も言わずに敬礼してくる。
私も無言で敬礼を返す。
そして、少尉はハッチの向こうに消えていった。
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