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「殿、晴明様。遅参失礼致しました」
座り、深く頭を下げる青年に、頼光が手を挙げて応じた。
青年はその場に座ったまま、首を捻る。
「ところで、如何されましたか」
「ああ。話を聞いてな、この子をどうするかという話をしていたのだ」
「不幸にも、頼れる者がいない身ですし、鬼に狙われている。ほっておく訳にもいきません」
納得したように頷き、青年は苑衣と頼光を見た。
「ならば、落ち着くまで晴明様のお屋敷にいてもらうのはどうでしょう」
仮にも希代の陰陽師の屋敷。
都の何処よりも安全だろう。
だが、頼光は溜め息を吐いて飽きれたように青年を見た。
「綱よ。お主は自分で助けた娘を他人に押しつけるか」
「あの、私は別に」
「しっ」
迷惑なら出て行くと言おうとした苑衣は、晴明に人差し指を立てられて口を閉じた。
「いえ、そういう訳では。しかし、ここよりは安全ですし」
「私の四天王と謳われ、武勇に優れるお主は女子一人守りきれぬか」
「いいえ!殿の命とあれば、必ずや守りきります!」
「うむ。いい心掛けだ」
「有り難きお言葉……あ」
しまったと顔を上げた青年に、頼光は意地悪い笑みを浮かべる。
いいように丸め込まれたらしく、項垂れた。
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