一話 桜

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「殿、晴明様。遅参失礼致しました」 座り、深く頭を下げる青年に、頼光が手を挙げて応じた。 青年はその場に座ったまま、首を捻る。 「ところで、如何されましたか」 「ああ。話を聞いてな、この子をどうするかという話をしていたのだ」 「不幸にも、頼れる者がいない身ですし、鬼に狙われている。ほっておく訳にもいきません」 納得したように頷き、青年は苑衣と頼光を見た。 「ならば、落ち着くまで晴明様のお屋敷にいてもらうのはどうでしょう」 仮にも希代の陰陽師の屋敷。 都の何処よりも安全だろう。 だが、頼光は溜め息を吐いて飽きれたように青年を見た。 「綱よ。お主は自分で助けた娘を他人に押しつけるか」 「あの、私は別に」 「しっ」 迷惑なら出て行くと言おうとした苑衣は、晴明に人差し指を立てられて口を閉じた。 「いえ、そういう訳では。しかし、ここよりは安全ですし」 「私の四天王と謳われ、武勇に優れるお主は女子一人守りきれぬか」 「いいえ!殿の命とあれば、必ずや守りきります!」 「うむ。いい心掛けだ」 「有り難きお言葉……あ」 しまったと顔を上げた青年に、頼光は意地悪い笑みを浮かべる。 いいように丸め込まれたらしく、項垂れた。 .
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