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「え、あの、でもっ」
「断れ!」
「まぁまぁ。なるだろう?」
この威圧感は何とかならないのか。
半泣きで晴明を頼ると、頭を悩ませていた。
「……頼光様。桜の君の意思を聞いて下さい」
「む」
「……あの。私」
「待て待て。聞いてくれんか。妻も娶らず武にのみ生きる喜びを持つこやつが、娘を屋敷に住まわすとなれば、いらん噂が立つ」
「だったらこいつを住まわせなければいいでしょ」
「いいや。すでに決めた事は覆せん。であるから、桜の君はここに住む理由が必要なのだ」
「……それでしたら、何も妻ではなく女房としていさせればよろしいかと」
「それではこやつが守る理由が無いだろう。今まで家臣を命懸けで守っていれば良いのだが?」
詰まった青年が、苑衣以上に困り果てた目で晴明を見る。
こうなれば頼りになるのは彼しかいない。
「頼光様、それでは婚約者とするのはいかがでしょう」
「「晴明様!?」」
「これくらい我慢して下さい」
あくまで婚約だから。
自分に言い聞かせる二人に、晴明は息を吐いた。
「ならばそれで良しとするか。何かつまらんが」
「自分の道楽に人を使わないで下さい」
晴明の一言にも、頼光は聞かなかったふりをした。
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