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「さて。私はそろそろ参内するか。行くぞ、綱」
「あ、はい」
「でしたら、私も」
立ち上がった男衆につられて、苑衣も立ち上がる。
「留守の間は金時が来る事になっているから、必要な事は聞きなさい。その格好も目立つし、着替えるといい」
「あ、行ってらっしゃい……ませ?」
殿上人なのだし、敬語は使いたいが、合ってるか分からず語尾が上がった。
三人が驚いたように苑衣を見る。
「……可愛らしいなぁ」
ぽつりと呟いた頼光に、苑衣は赤くなったまま俯いた。
「安心するがいい。綱は早めに帰す」
「え、あ、はい」
「殿!」
同じく真っ赤になる青年を引き摺りながら、頼光がいなくなる。
後を追っていた晴明が、足を止め振り返った。
「晴明様?」
「念の為に式神を憑けましょう。天一」
ふわりと風が動いた気がしたが、何が変わったか分からなかった。
晴明が頭を下げていなくなる。
残された苑衣は、黙って桜に目を移した。
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