一話 桜

10/11
前へ
/384ページ
次へ
「さて。私はそろそろ参内するか。行くぞ、綱」 「あ、はい」 「でしたら、私も」 立ち上がった男衆につられて、苑衣も立ち上がる。 「留守の間は金時が来る事になっているから、必要な事は聞きなさい。その格好も目立つし、着替えるといい」 「あ、行ってらっしゃい……ませ?」 殿上人なのだし、敬語は使いたいが、合ってるか分からず語尾が上がった。 三人が驚いたように苑衣を見る。 「……可愛らしいなぁ」 ぽつりと呟いた頼光に、苑衣は赤くなったまま俯いた。 「安心するがいい。綱は早めに帰す」 「え、あ、はい」 「殿!」 同じく真っ赤になる青年を引き摺りながら、頼光がいなくなる。 後を追っていた晴明が、足を止め振り返った。 「晴明様?」 「念の為に式神を憑けましょう。天一」 ふわりと風が動いた気がしたが、何が変わったか分からなかった。 晴明が頭を下げていなくなる。 残された苑衣は、黙って桜に目を移した。 .
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

309人が本棚に入れています
本棚に追加