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空木達にしてみれば、苑衣の事を聞きたい。
昨夜、毎夜の事ながら主が夜警に出かけた帰り、奇妙な格好をした少女を抱えていたのだから。
今は主の命により、自分達が袿姿にしたが、明るい色の髪も短いし眉もある。
容姿はいいが、姫君には見えない。
果たして、主とどういう面識があって許婚になったのだろう。
「……あの、桜の君様。失礼とは存じますが、あなた様はどこの姫君なのでしょうか」
「え。あー。私、別に姫君じゃないです」
「でしたら、何処で殿と」
「えっとぉ」
答えるのに悩む。
苑衣のそんな姿を見ていた空木は、じっと答えを待った。
「……あの。綱様は、昔、私を鬼から助けてくれたんです」
「それが出会いですか」
「はい。……それで、頼光様の計らいで」
間違ってはいない。
「左様ですか。でしたら、昨夜も助けられたのですか」
「え、ええ。私には親がいなくて、度々、綱様が様子を見に来て下さったんです。昨夜もそうでしたが、たまたま鬼が私を襲っていて」
即興の作り話の後、ワザと大袈裟に震えて袖を目許に押しつける。
中学から続けている演劇の部活が、役に立つ日が来るとは。
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