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静かな空間に衣擦れの音がして、年老いた女房が少年を連れて現れた。
空木が慌てて隅へ行く。
「桜の君様、こちら坂田金時様にございます」
「え?」
女房が避けると、ヒョロッとした細身の少年が視界に飛び込んで来た。
あまりのギャップに、苑衣の思考は停止する。
『坂田金時』を知らない者は滅多にいないのではないだろうか。
あの足柄山の金太郎だ。
熊と相撲したり、馬の稽古をして、鉞が必須アイテムのおかっぱ少年は記憶が深い。
これがその金太郎の将来だ。
固まった苑衣に、ほんわかした笑みの金時は首を捻った。
それから、ああと声をあげて苑衣の前に座った。
「はじめまして。源頼光様の家臣、坂田金時と申します」
「苑……あ」
「桜の君とお呼びします」
「では、金時様と」
にこにこ笑いあいながら挨拶をする苑衣と金時に、女房が咳払いをした。
金時が不思議そうに首を傾げる。
「坂田様、ご用件をお済まし下さいませ。桜の君には源の家系に恥じぬ教育を受けてもらわねばなりませぬ」
「『渡辺』だよ。綱さんは渡辺と名乗ってるんだから」
『渡辺綱』……。
苑衣は驚いて金時を見た。
そうだ。主が『源頼光』であり彼等が『渡辺綱』と『坂田金時』ならば、かの有名な四天王ではないか。
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