二話 四天王

4/11
前へ
/384ページ
次へ
静かな空間に衣擦れの音がして、年老いた女房が少年を連れて現れた。 空木が慌てて隅へ行く。 「桜の君様、こちら坂田金時様にございます」 「え?」 女房が避けると、ヒョロッとした細身の少年が視界に飛び込んで来た。 あまりのギャップに、苑衣の思考は停止する。 『坂田金時』を知らない者は滅多にいないのではないだろうか。 あの足柄山の金太郎だ。 熊と相撲したり、馬の稽古をして、鉞が必須アイテムのおかっぱ少年は記憶が深い。 これがその金太郎の将来だ。 固まった苑衣に、ほんわかした笑みの金時は首を捻った。 それから、ああと声をあげて苑衣の前に座った。 「はじめまして。源頼光様の家臣、坂田金時と申します」 「苑……あ」 「桜の君とお呼びします」 「では、金時様と」 にこにこ笑いあいながら挨拶をする苑衣と金時に、女房が咳払いをした。 金時が不思議そうに首を傾げる。 「坂田様、ご用件をお済まし下さいませ。桜の君には源の家系に恥じぬ教育を受けてもらわねばなりませぬ」 「『渡辺』だよ。綱さんは渡辺と名乗ってるんだから」 『渡辺綱』……。 苑衣は驚いて金時を見た。 そうだ。主が『源頼光』であり彼等が『渡辺綱』と『坂田金時』ならば、かの有名な四天王ではないか。 .
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

309人が本棚に入れています
本棚に追加