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「徳芳、あなたは源という名に執着し過ぎじゃない」
苑衣に向ける笑みとは違う笑顔に、端に控える空木が身震いをした。
「余所様にそのような事を言われる覚えはございません」
「僕は殿より桜の君を任されているんだ」
意味が分るよねと続けた金時に、女房・徳芳は眉を顰めて踵を返すと、去って行った。
唖然とする苑衣とは違い、空木が安堵して息を吐いた。
それに金時が笑みを浮かべる。
「空木、桜の君のお付きになったんだね」
「あ、はい」
頬を赤らめ笑う空木に、苑衣は気付いて同じく笑った。
「空木ちゃん、そんな所にいないでこっちにおいでよ」
「え……そんな……」
慌てる空木に、苑衣は傍らを叩いて勧める。
暫くして、空木は苑衣と金時の傍らに座った。
「ところで金時様は、頼光様の腹心の部下なのでしょう?」
「まだまだ未熟者ですよ」
「……実はそう見えて、力持ちとか」
「いいえ!とんでもありません!」
やはり作り話か。
まぁ、何時の時代に熊と相撲とる子供がいると言うのか。
「自分は全然ですよ。ただ、熊と力比べして勝つだけですし」
いた。目の前にいた。
恥ずかしそうに武勇伝を語る金時に、苑衣は遠い目になった。
何でも無いかのように言ってるが、とんでもない事です。
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