二話 四天王

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これ以上、迷惑を掛けられない。 重い沈黙の後、綱が溜め息を吐いた。 「お前の都合は関係ない。殿からの命令だ」 「……まぁ。そういう事だし、気にすんな」 よいしょと立ち上がった季武は、コキッと首を鳴らした。 金時も立ち上がる。 「そろそろ帰るか」 「僕は一旦、殿に会って来ます。それでは桜の君、また明日」 「あ、はい。お世話になりました」 苑衣が見送ると、一同はそのまま部屋を出て行く。 苑衣は、また桜の木を見た。 茜色に染まる庭の中、緋の花びらは尽きる事なく散っていく。 自分の時代に帰る方法を探さなくてはならないのに、何故かそんな気が起こらない。 「…………当たり前かな」 あそこに自分の居場所はない。 何時からだったのだろう。 仲が良い両親。温かい家庭。 その全てが作り物になったのは。 体制を気にして仲睦まじい夫婦を演じる両親は、家の中では冷えきっていた。 表面上では良き父良き母なのに、内側では苑衣を疎ましく感じていた筈だ。 苑衣の存在があったから、両親は離婚ができなかったのだから。 あの時感じた胸の痛みは、あの両親が本気で苑衣を心配してくれないと知っているからだ。 心配してくれるのは、今日子だけ。 今日子の為なら帰るべきなのに、ここにいたいと思い始めていた。 .
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