二話 四天王

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物音がして振り返れば、綱が立っていた。 「冷えるぞ」 「着物が温かいから」 十二単ではないが、着込んでいるのに変わりなく、寒くはない。 ああ、そういえば……。 苑衣は綱に向き直った。 「お帰りなさいませ」 面食らったような綱は、頬を赤らめ視線を逸らした。 「……おう」 ぶっきらぼうな返事に、苑衣は破顔した。 「もういいから中に入れ」 「……そうですね……わっ」 一日座っていたのだ。 足に力が入らず、苑衣は前につんのめった。 咄嗟に綱が受け止めてくれ、転倒だけは防げる。 「……ごめんなさい」 「危なっかしいな」 支えてもらい立てたものの、恥ずかしくて顔を上げられない。 苑衣は俯いたまま慌てて手を離した。耳が熱い。 「これじゃぁ、本当に勉強してもらわなきゃな」 「え?」 「徳芳に言われたんだろ?家に恥じないよう勉強してもらうって」 「あ!」 すっかり忘れてた。 不安そうに見上げる苑衣に、綱は苦笑した。 「本当に正室になる訳でもない。安心しろ」 「……はい」 中に入り、円座に座る。 空木と百未が入って来て、薄暗くなった室内の灯台に火を灯した。 .
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