309人が本棚に入れています
本棚に追加
『晴明。例の娘を見て来たが』
「桜の君か」
『あれは気の毒よの。死相が濃い。あの年で生きるのを諦めているようだ』
式神の言葉に、晴明は苦笑を漏らす。
そうだ。確かに一目見た時、気の毒だと思った。
背景に散る桜と合わせ、酷く儚く見えた。
「……しかし、綱殿もいる」
『あの子童が何をできる』
「人とは時に、強くなる者だよ」
『…………知ってる』
彼等の主がそうなのだから。
「協力してくれ。何としても術者を探し出すんだ」
『『了解』』
気配が消える。
それを待っていたように、妻戸が開いて可愛らしい男の子が顔を覗かせた。
まだ幼く小さい男の子だ。
おぼつかない足取りで晴明に近寄り、ぱふっと足に抱き付く。
「吉平、どうした」
本来ならばすでに寝ている筈の愛息子は、不思議そうに目を瞬かせた。
「とうさま?おには?」
オニとは式神の事を言っていると分かっている。
体を抱き上げ、笑い掛ければ、大きく首を傾げた。
「オニは今、お使いをしているよ。母様はどうした」
「ははさまね、おねんねしてるの」
体が弱い妻を思い浮かべ、そっと息を吐いた。
それから、この幼い子を寝かしつける為に部屋を出ようとする。
が、それより先に音も無く女が現れた。
.
最初のコメントを投稿しよう!