三話 十二神将

8/13
前へ
/384ページ
次へ
宮中では陰謀が渦巻いている。 己の立身出世の為なら、他人を犠牲にする等、当たり前だ。 その乞食もそうなのだろう。 不意に騒がしさが消えた。 傍らにいた気配が消え、暫くして妻戸の前で声が掛けられる。 「入ってもいいか」 「綱様?」 妻戸が開き、まだ烏帽子を着けている綱が入って来た。 早過ぎる帰宅に、苑衣は目を瞬いた。 「何だ?」 「あ、いえ。お帰りなさいませ」 三つ指を付いて頭を下げれば、綱は表情を僅かに和らげ向かいに座った。 綱は帰ると必ず、部屋に来る。 理由は分からないが、お蔭で一日一回は顔を合わせた。 「今日はお早いんですね」 「早番だったからな」 にしては早いだろ。 「そういえば、物乞いが来ていたそうですが」 「ああ。皆が必死で追い返してたが、また来るだろ」 「……貴族の方だったらしいです」 驚いたように目を見張り、綱は隅へ視線をやる。 まだ控えている二人の神将は、その視線に気まずそうにした。 「……俺には教えずこいつには教えたんだな」 『伝える必要が無かったと』 「言い訳無用」 責めているようで、拗ねて見えるのだから、苑衣は小さく笑った。 ふと、また騒がしくなる。 これには全員、面食らった。 .
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

309人が本棚に入れています
本棚に追加