三話 十二神将

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「……随分と早いな」 溜め息を吐き立ち上がった綱に、苑衣も続く。 「お前は部屋から出るな」 「え」 ここにいろと言われ、苑衣は小さく頷く。 綱が出て行くと、御簾の前に座って庭を見た。 足音をたて空木が入って来る。 「桜の君様?」 「終わったの?」 「あ、いえ」 言い澱む空木に、苑衣は意地悪い笑みを浮かべた。 「見張りだ」 「っ!」 驚く空木に、苑衣は苦笑した。 嘘が吐けないんだろう。 斜め後ろに座り、言葉を探す空木に、苑衣は向き合った。 「どんな方なの、物乞いの人は」 「……あの。汚いです」 率直な感想だ。 「それで。怖いです」 「怖い?」 「あの人、何か怖いんです」 空木には気付かれぬよう、神将のいる方を見る。 気配の一つが頷き、消えた。 見に行ってくれたのだろう。 「どんな感じで怖いの?」 「……禍々しいと言いますか。何か良くない感じです」 気配が戻る。 苑衣は、水が欲しいと理由を付けて空木を退室させた。 「何か分かりましたか?」 『別に憑物という訳では無い。何か野望を抱えていたがな』 それを恐ろしく感じたのかもしれない。 ただ、と白虎の太い声は続ける。 『姫は近付かぬ方がいい』 「どういう事ですか?」 『あ奴は隠しているが、姫に危害を及ぼす気だ』 何処かで会い、恨みを買う筈が無い。 ならば、依頼か……? .
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