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「はぁ」
重い溜め息に、季武は隣りの綱を見た。
時刻は草木も眠る丑三つ時。
何故そんな時間に外をうろついてるかと言えば、自分達の主と希代の大陰陽師の間で結ばれた約束だからだ。
ここ最近、娘が鬼にさらわれるという事件が相次いでいて、その鬼退治の為に夜警をしているのだ。
が。これが恐ろしい程効果が無い。
真面目にやってはいるが、犯人である鬼に会わないのだ。
先日、苑衣を助けた時に感じたあの鬼違いという落胆が忘れられない。
「どうした、綱」
「……また物乞いが来たんだよ。一向に帰らなくて」
夜警前に寝る時間を、あの物乞いのせいで失った。
理不尽な怒りに燃える綱に、季武は頭を掻いた。
「……にしても。何の用なんだ?」
「飯をくれないなら雇えだと」
「んな余裕ねぇだろ」
何とか使用人を雇う余裕はあるが、あまり贅沢はできない。
「だから断った。飯もやったら癖になるし」
「が、相手も頑固なんだな」
「帰ったと思ったら半刻後にまた来るしな」
「晴明の神将に追い返してもらえば?」
「無理。あいつにべったり」
「まぁ、桜の君可愛いしな」
可愛いとか可愛くないでやる気が違うという訳でもないが、あれはかなり気に入っているだろう。
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