三話 十二神将

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******* 「はぁ」 重い溜め息に、季武は隣りの綱を見た。 時刻は草木も眠る丑三つ時。 何故そんな時間に外をうろついてるかと言えば、自分達の主と希代の大陰陽師の間で結ばれた約束だからだ。 ここ最近、娘が鬼にさらわれるという事件が相次いでいて、その鬼退治の為に夜警をしているのだ。 が。これが恐ろしい程効果が無い。 真面目にやってはいるが、犯人である鬼に会わないのだ。 先日、苑衣を助けた時に感じたあの鬼違いという落胆が忘れられない。 「どうした、綱」 「……また物乞いが来たんだよ。一向に帰らなくて」 夜警前に寝る時間を、あの物乞いのせいで失った。 理不尽な怒りに燃える綱に、季武は頭を掻いた。 「……にしても。何の用なんだ?」 「飯をくれないなら雇えだと」 「んな余裕ねぇだろ」 何とか使用人を雇う余裕はあるが、あまり贅沢はできない。 「だから断った。飯もやったら癖になるし」 「が、相手も頑固なんだな」 「帰ったと思ったら半刻後にまた来るしな」 「晴明の神将に追い返してもらえば?」 「無理。あいつにべったり」 「まぁ、桜の君可愛いしな」 可愛いとか可愛くないでやる気が違うという訳でもないが、あれはかなり気に入っているだろう。 .
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