四話 良妻?

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春は瞬く間に走り去り、季節は夏になった。 ぐてっと床に突っ伏す苑衣に、帰って来た綱は目を丸めた。 付いて来た金時が、慌ててる空木を見る。 「……何があった?」 徳芳の事は知ってる。 だが流石に、こうなるまで叩き込まないよう言ってるので、理由が分からない。 比較的落ち着いている百未が、扇で苑衣を扇いでいる。 「あー。暑さにバテたとか」 「いいえ。それもありますが、違います」 「なら何だ?」 「桜の君様は熱で倒れてます」 間。 全員の視線は、俯せたまま動かない苑衣に集まった。 「……熱を出してるんだよな」 「昼から。恐らく過労かと」 「これは、熱がある奴を寝かせると言うのか?」 「……殿に『お帰りなさいませ』を言うまで寝ないと」 瞬間。金時が口を押さえて柱に寄り掛かる。 綱も嬉しくない訳では無いが、これは流石に……。 「……っ馬鹿」 「ふへぇぁ……綱様ぁ?」 起きた苑衣が、顔を真っ赤にさせながら綱を見る。 その体を抱き上げ、茵を敷かせた。 くたぁっとしている苑衣は、もごもごと口を動かす。 何か言おうとしてるのに気付き、口許に耳を寄せた。 「お……帰りくだ……さい、綱様ぁ……」 何処に帰れと? それにこの臭いは。 綱は空木達を止めた。 そのまま踵を返し部屋を出る。 苑衣を連れて出るのは気がひけたが、こればかりは仕方ない。 慌てて金時達も付いて来た。 .
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