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頭が痛い。
起きて寝返りを打ちながら、苑衣は呻いた。
『姫様、大丈夫ですか』
「……天一?ん?私、何時寝たの?」
お昼、季武が寝るまでは記憶があるのだが。
首を捻っていたら、手が額に触れる感触がした。
その冷たさが気持ち良くて、苑衣は目を細めた。
「……気持ちいい」
『お母君はこうして下さいましたか?』
「どうだろう」
物心付く頃から冷えきっていたから、覚えはない。
「……こうしてもらうの、夢だったんだ」
『…………お役に立てましたか?』
「ありがとう。……何か騒がしい」
『殿方が宴をしておりますから』
綱が帰って来ていたのか。
何も覚えていないから、知らなかった。
苑衣が使っている部屋は東対屋だ。
騒がしいのは寝殿。
ここから出た事が無いから分からないが、そこにいるのだろう。
行ったら迷惑だろうな。
御簾の向こうで明かりが点いている寝殿が見え、気になりながらも諦める。
『姫様』
『起きたか。綱が来るぞ』
「え!?」
慌てた苑衣は、二人に口止めした茵に潜ると、狸寝入りを決め込んだ。
すぐに妻戸が開き、綱が入って来た。
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