四話 良妻?

7/9
前へ
/384ページ
次へ
「どうだ、起きたか……って、聞くまでもないか」 傍らに座る気配。 バクバクと心臓が鳴る。 狸寝入りなんてしなくてもいいのだが、何故か顔を合わせ辛く咄嗟に寝たふりをしてしまった。 このまま宴に戻ってくれる事を願っていた苑衣は、息苦しさに口を開いた。 「……むはっ!?」 鼻で呼吸ができない。 口でもやりにくく、パクパク開閉する。 それも我慢の限界で、目を開くと意地悪い顔をした綱が鼻を摘んでいた。 「綱はまぁ?」 「お目覚めですか、桜の君」 「くるしぃです」 手を叩いて抗議をすると、笑いながら離す。 「何するんですか」 「狸寝入りなんてするから」 意味が分からない。 唇を尖らせた苑衣は、仕方が無いから起き上がった。 風に乗って、僅かに酒気の臭いがした。 「……あ。お帰りなさいませ、綱様」 「…………ああ」 本日二度目になるが、苑衣は覚えていない。 「綱様?宴に戻らなくてよろしいのですか?」 「……ああ。俺はこの後夜警があるし。今から仮眠をとって出る」 その前に様子を見に来たらしい。 ふと、苑衣は思い付いて手を合わせた。 「門は綱様の部屋よりこちらの方が近いし、ここでお休み下さい」 「はぁっ!?」 「大丈夫です!ここは結界もありますし」 名案だと喜ぶ苑衣は、顔を真っ赤にして俯く綱に首を傾げた。 神将は静観しているらしく、声を掛けない。 .
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

309人が本棚に入れています
本棚に追加