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「……綱様は刀は、『髭切りの太刀』って言うんだよね」
『はい』
源氏の名刀だ。
朱塗りの鞘に手を伸ばし、柄を握って引く。
刀を抜くのに力がいる。
何とか引き抜くと、月明りに鈍色の刀身が輝いた。
「……今すぐ太刀を置け」
驚いて綱を見れば、背中を向けたままの体勢だ。
慌てて鞘に仕舞い戻す。
「……あの。ごめんなさい」
謝ると、綱は起き上がり、茵から出て太刀を腰に差した。
「謝るなら最初から触るな。次やったら斬る」
「っ!!」
恐らく冗談ではない。
勝手に触った自分に非があるのは分かってる。
手甲をはめて出て行く綱を見送りながら、苑衣は息を吐いて俯いた。
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