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暑さには絶対に向かないと、苑衣は自分が着てる袿を睨み下ろしていた。
庭の桜の木は青々と葉を繁らせ、白砂は太陽光を眩しく反射し、屋敷には必需品の遣水だけが涼しそう。
御簾の向こうの景色は別世界だ。
何時もならだらけて徳芳に怒られているが、今日はそういう訳にはいかない。
「空木ちゃん、本当に来るの?」
「はい。あわわ!もっとシャンとして下さい」
「……頼光様の使いなんて、珍しい」
使いを寄越すのではなく、何故だかご本人がいらっしゃるのだから。
昨夜の突発性の宴の帰り、わざわざ寄って帰ってくれたのに、何の用か。
「そういえばそうですね」
さくさくと支度をしていた百未も、手を休め首を捻る。
苑衣の髪を梳いていた空木が不安そうな目になる。
「殿に何かあったのでは」
「綱様に?」
昨夜別れたまま会わない綱を思い出し、心配になった苑衣は、空木を振り返る。
「空木、いらない心配をお掛けしないの」
「でも。毎日、昼は公務夜は夜警の繰り返しですし」
睡眠時間も少ない。
考えれば考える程、苑衣達三人は心配になる。
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