一話 桜

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詳しい事は覚えてない。 いや。知らないのだ。 何時ものように学校に行って、普通に一日を過ごし、部活終了後に下校していた。 それがどうだ。 気がついたら見た事がない町の中にいて、しかも夜になっていて、あの赤鬼が現れたのだ。 自分を見て『喰ウ』等と言ったから、本能で逃げた。 とにかく走って走って、足が縺れた瞬間、死を悟った。 絞められた首に、意識が飛んだ。 次に目を覚ました時、月を背にした誰かを見た。 夢なのだろうか……。 夢だったらどれ程いいか。 だが、期待に目を開くと、そこは自室とは懸け離れた寝殿造りの一室だった。 自分が寝かされている布団の周りには、几帳や衝立が並んでいる。 朝日が入る室内の様子は明るかった。 暫く天井を見ていた少女・苑衣は、両手で顔を覆った。 泣きはしない……。 ただ、少し頭の中で整理したい。 何となく、この流れは知っている。 自分でも驚く程冷静に、物事を理解できそうだ。 起き上がり、周りを見る。 室内は資料集等で見るような、寝殿造りそのものだった。 着ている白の単衣を見つめて、それから枕元を見る。 制服が置いてあるような気配は無かった。 .
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