309人が本棚に入れています
本棚に追加
/384ページ
詳しい事は覚えてない。
いや。知らないのだ。
何時ものように学校に行って、普通に一日を過ごし、部活終了後に下校していた。
それがどうだ。
気がついたら見た事がない町の中にいて、しかも夜になっていて、あの赤鬼が現れたのだ。
自分を見て『喰ウ』等と言ったから、本能で逃げた。
とにかく走って走って、足が縺れた瞬間、死を悟った。
絞められた首に、意識が飛んだ。
次に目を覚ました時、月を背にした誰かを見た。
夢なのだろうか……。
夢だったらどれ程いいか。
だが、期待に目を開くと、そこは自室とは懸け離れた寝殿造りの一室だった。
自分が寝かされている布団の周りには、几帳や衝立が並んでいる。
朝日が入る室内の様子は明るかった。
暫く天井を見ていた少女・苑衣は、両手で顔を覆った。
泣きはしない……。
ただ、少し頭の中で整理したい。
何となく、この流れは知っている。
自分でも驚く程冷静に、物事を理解できそうだ。
起き上がり、周りを見る。
室内は資料集等で見るような、寝殿造りそのものだった。
着ている白の単衣を見つめて、それから枕元を見る。
制服が置いてあるような気配は無かった。
.
最初のコメントを投稿しよう!