五話 誘拐

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「お医者様をお呼びした方が」 「容体によりますね。手筈は整えておきましょう」 どうか無事でありますように。 祈る苑衣は、使者の到着に息を飲んだ。 使者を連れて来た徳芳が、苑衣の後ろに座る。 身形のいい使者は、御簾の前に座り深々と頭を下げた。 「桜の君様。突然の訪問、失礼致しました」 「あ、いえ」 「桜の君様」 直接口を利くなと、徳芳が睨みをきかせる。 そんな事を強制されても、自分は生まれながらの姫でもないし、他人を通しての会話は落ち着かない。 その不満を悟ったか、徳芳は耳許に囁いた。 「……桜の君様。殿の面子をお潰しするつもりですか」 「…………分かりました」 あくまでもお世話になっている身だ。 綱の面子を潰すような事はしたくない。 徳芳は満足そうに頷き、使者へ視線をやる。 「頼光様からの言伝は何でしょう」 「はっ。渡辺殿がお倒れになりました故に、至急屋敷へ起こし頂きたい」 「やっぱりぃ!」 両頬に手を添え叫んだ苑衣に、徳芳が咳払いをする。 「殿はお帰りできない程、重病なのでしょうか」 「それ程ではございませんが、渡辺殿が桜の君様をお呼びですので」 「行きます!今すぐ!」 「桜の君様!?」 やはり無理が祟ったのだろう。 呼んでるなら駆け付け、自分にできる事をしなくては。 .
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