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「お医者様をお呼びした方が」
「容体によりますね。手筈は整えておきましょう」
どうか無事でありますように。
祈る苑衣は、使者の到着に息を飲んだ。
使者を連れて来た徳芳が、苑衣の後ろに座る。
身形のいい使者は、御簾の前に座り深々と頭を下げた。
「桜の君様。突然の訪問、失礼致しました」
「あ、いえ」
「桜の君様」
直接口を利くなと、徳芳が睨みをきかせる。
そんな事を強制されても、自分は生まれながらの姫でもないし、他人を通しての会話は落ち着かない。
その不満を悟ったか、徳芳は耳許に囁いた。
「……桜の君様。殿の面子をお潰しするつもりですか」
「…………分かりました」
あくまでもお世話になっている身だ。
綱の面子を潰すような事はしたくない。
徳芳は満足そうに頷き、使者へ視線をやる。
「頼光様からの言伝は何でしょう」
「はっ。渡辺殿がお倒れになりました故に、至急屋敷へ起こし頂きたい」
「やっぱりぃ!」
両頬に手を添え叫んだ苑衣に、徳芳が咳払いをする。
「殿はお帰りできない程、重病なのでしょうか」
「それ程ではございませんが、渡辺殿が桜の君様をお呼びですので」
「行きます!今すぐ!」
「桜の君様!?」
やはり無理が祟ったのだろう。
呼んでるなら駆け付け、自分にできる事をしなくては。
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