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どうしようかと悩んでいたら、足音が近付き妻戸が開いた。
苑衣は、慌てて大掛けの単衣を頭まで羽織った。
もしかしたらあの赤鬼かもしれない。
そう警戒する苑衣は、几帳や衝立の合間から出て来た人物に固まった。
まず狩り衣が視界に入る。
ついで、視線を上げれば、こちらを不審そうに見てくる瞳と目が合う。
頭の後ろで結い垂らしている黒髪は、艶を持っていた。
「……何をしている」
苑衣の格好は怪しい事この上ない。
固まったまま動けない苑衣に、青年は溜め息を吐いた。
「娘、昨日の事は覚えているか」
「……あ、赤鬼」
「何故あいつに狙われたかは知らんが、まだ諦めていないらしい」
そう言いながら胡座を掻いた青年に、苑衣は泣きそうな目になった。
何故狙われたかなんて、知る筈もないのに、まだ狙われてると言うのだ。
「……あのっ、ここは何処なんですか?」
「京の都にある俺の屋敷だ」
何を当たり前なっと言いたそうな青年に、苑衣は小さく俯いた。
「……今は何年でしょう」
「永祚元年」
「…………平安時代」
ならばここは平安京か。
自分がいた未来から、千年以上昔にタイムスリップしてしまったらしい。
苑衣は力が抜けたように肩を落とす。
と、頭まで被っていた大掛けが肩までずり落ちた。
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