一話 桜

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どうしようかと悩んでいたら、足音が近付き妻戸が開いた。 苑衣は、慌てて大掛けの単衣を頭まで羽織った。 もしかしたらあの赤鬼かもしれない。 そう警戒する苑衣は、几帳や衝立の合間から出て来た人物に固まった。 まず狩り衣が視界に入る。 ついで、視線を上げれば、こちらを不審そうに見てくる瞳と目が合う。 頭の後ろで結い垂らしている黒髪は、艶を持っていた。 「……何をしている」 苑衣の格好は怪しい事この上ない。 固まったまま動けない苑衣に、青年は溜め息を吐いた。 「娘、昨日の事は覚えているか」 「……あ、赤鬼」 「何故あいつに狙われたかは知らんが、まだ諦めていないらしい」 そう言いながら胡座を掻いた青年に、苑衣は泣きそうな目になった。 何故狙われたかなんて、知る筈もないのに、まだ狙われてると言うのだ。 「……あのっ、ここは何処なんですか?」 「京の都にある俺の屋敷だ」 何を当たり前なっと言いたそうな青年に、苑衣は小さく俯いた。 「……今は何年でしょう」 「永祚元年」 「…………平安時代」 ならばここは平安京か。 自分がいた未来から、千年以上昔にタイムスリップしてしまったらしい。 苑衣は力が抜けたように肩を落とす。 と、頭まで被っていた大掛けが肩までずり落ちた。 .
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