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「私は貴族の姫ではありません」
「そうなのか。姫ならばすぐに家を見つけてあげられたのだが。……なぁ?晴明殿」
くすくすという笑い声の後、柱の影から白い狩り衣を着た男が現れた。
こちらも烏帽子は着けておらず、白髪が混じる黒髪は一つに結われている。
細い面立ちに、射抜くような瞳。
何となく只者では無い気がした。
「頼光様、こちらの方は姫であっても家を探すのは無理でしょう」
「何故」
「この時代の女子ではございませんゆえ」
何故知ってる?
苑衣の警戒が高まった。
構える姿に苦笑し、晴明と呼ばれた男は苑衣の前に膝を付いた。
「苑衣様でしたね。私は陰陽寮蔵人の頭・安倍晴明と申します」
「陰陽……寮……?」
「内裏にある役所の一つです。陰陽師達が詰めている場所で責任者をしていると言えば分かりますか?」
苑衣はこくっと頷いた。
陰陽師は暦や占いを、専門的に行っている。
それに、安倍晴明とは平安中期に活躍した、超有名な陰陽師だ。
知っていてもおかしくないかもしれない。
苑衣の警戒が解けたのを見て、晴明は笑みを深くした。
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