一話 桜

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「ところで、話を聞いてもいいかな?」 頼光が言いながら、腰を下ろすと、晴明も座った。 苑衣はその隣りに座る。 「君は何処から来たのかな」 「……ここから、約千年先の時代です」 「千年……」 「それはまた遠い」 百年の十倍の時間だ。 この時代の平均寿命が低い為、百年生きれる者は限り無く無に近い。 一人の人間の人生でも、百年とはとても長いのだし、そう考えれば相当な年数だ。 「先の日本の事は気になるが、まずはどうしてここに来たのか教えてくれ」 「……分かりません。気付いたらここに来てて」 闇から現れた赤鬼に襲われた。 昨日の話は聞いているのか、頼光は痛ましい目になる。 「昨夜は、さぞ恐ろしかっただろう」 頷くと、晴明は懐から小さな袋を取り出し、苑衣に渡した。 甘い匂いが鼻腔をくすぐる。 「香の匂いは邪気払いの効果を持つ。特に伽羅の匂いはいい。差し上げますから肌身離さずお持ち下さい」 「ありがとうございます」 首に掛けられる小袋に笑みを浮かべ、それを首に吊すと、服の下へ隠した。 「さて。これから苑衣様をどうしますか」 「ああ。行く場所も頼る者もいないという事になるし」 その時、何処へ行っていたのか青年が戻って来た。 ちゃんと烏帽子を着けている。 .
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