俺の仕事

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「統計によると今年の失業者数は例年を上回っています」  テレビの画面ではニュースキャスターが今年の失業者数のデータを読み上げている。 「ま~、失業者を減少させることを考えるのもそれはそれでいいんでしょうけど、ま~なんですな~…。この頃の若者は仕事を選びすぎなのでは?」  ニュースキャスターに促されたひげ面の男がしゃべっている。 「私たちの若い頃はですな、そりゃ何でもやりましたよ~。楽して収入を得て…そんなことばかり考えてるから堕落するんですよ。フリーターだとか言ってそんなのは、ただの 野良犬ですな~」 「ま~ま~、とにかくですね~、更なる政府の対策に期待したいものですね~」  コメンテーターの毒舌を制するようにキャスターは差し障りないコメントを入れCMを促す。 「うっせえ、このじじい!」  戸倉智之は枕元のリモコンを無造作に取り上げるとTVを消した。  これと言った仕事を持たない智之にとって耳の痛い話題であったからだ。「俺の仕事は歌を作って歌うこと」と自称する智之だったが、実のところは月に1・2度、小さなスナ ックでギターを爪弾く程度のものだった。  収入は無いに等しい智之だったが、その家計の穴は同棲している野田博美が支えていた。  博美は都内の病院で看護婦をしている。収入もそれなりに有るし、取り立てて言うほどのとりえの無い智之ではあるが楽しい彼と一緒に居れば寂しくない、そんな理由から彼 と同居し自分も含めた彼との生活を支えているのだった。 「紐」と言ってもいいような智之の生活を見かねた友人たちは、彼に仕事を探すよう勧めたが、それも智之にとっては先程までTVが垂れ流していたくだらないニュースと同じよ うなものでしかなかった。 「っち、新曲でも作るか…」  そう独り言をいいながらも智之の手は冷蔵庫から缶ビールを掴み取る。酒が無ければ良い曲ができないっとでも言いたげにグビグビとそれをあおる。その後に名曲が完成し大 ヒットでもするのなら文句もないのだろうが、そうは行かない。2本・3本…杯を重ねるだけでいっこうに曲などうかんでは来ないのだった。
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