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#01~雪影に霞む妖刀
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雪……。
それは、全てを純白の色に染める自然の力。
人々の心さえも凍りつかせる寒冷の厳しさは、その天空よりの儚い輝きを際立たせるかのように、その大地を白く覆い尽くし、二度と光の元へ曝させることはない。
大地自体が純白の闇に閉ざされた美しくも不気味な光景は、静寂さえも恐怖に変えてしまうかのようであった。
「うん、わかってる……約束は守るよ」
そんな雪上を、一人の少女が新雪を掻き分けながらゆっくりと歩いていく。
薄い生地でありながらも、妙に暖かみの感じられる白いコートを纏った長い黒髪の少女……。
手には周囲の景色と同じ白銀の刃が煌めく刀が握られており、その瞳は、ただ薄暗い闇の一点を見つめていた。
「君が力を取り戻す日まで、僕は絶対強くなってみせる……だから、それまではクナギと一緒に旅をさせて」
その刹那、周囲の雪原に吹き抜けた風が降り積もって間もない雪を宙空へ舞い上げた。
決して現代の世に交わることのない怪しげな光が、雪上を白銀に染める。
そして、その中でも悠然と立つ少女を光が照らし出した瞬間、彼女の視線の先を朧げな獣の影が通り過ぎた気がした。
……。
少女を見守るかのように輝きを強めた雪原の奇跡……。
その温かな光は、彼女の手にする刀を更なる輝きに染め、光沢を放つ刀の表面が目の前の光の中に立つ一匹の巨大な狐の影を映し出す。
静寂さえ身震いさせる夜のできごとから始まった約束が、更なる波紋を呼び起こそうとしていた。
…―
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