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Ρ
見渡す限り、広大な大地が広がるデュバルム大陸の北部。
緑が生い茂る大陸中央とはことなり、植物の息吹すら感じない荒れ果てた山脈が続いている。
さらに、その先には気候が一変した雪と氷に覆われた寒冷地が広がっていた。
そんな中、純白の色に染まった大地を突如、凄まじい衝撃とともに巨大な影が雪場へ姿を現す。
氷山のような鋭い氷の無数に背負い、体の側面に突き出た胸鰭と後方へ伸びる尾鰭を使って雪原を泳ぐように進んでいる。
まるで、海洋を泳ぐ鯨のような巨体を前に、大地が凄まじい衝撃が伝わっていった。
「デルピュネス……北部に棲息する雪鯨龍だ。その髭を織り込んで作られた特産品『新雪の羽衣』の材料だって聞いていたが、まさか、あんなにデカいとはな」
そんな巨体を、少し離れた雪原から見つめる二つの影があった。
一つは、黒い厚手のロングコートを纏った長い赤髪の青年。
腰には、黒い結晶のような鞘に収まった刀が携えられており、手袋を身につけた手に握られた双眼鏡で、目の前を進行する巨体に目を向けている。
さらに、その背後には、即席で作られた焚火で暖を取るツインテールに結った金髪の少女の姿があり、首に巻かれた赤いロングマフラーと白のピーコートを入念に着直した。
「大体レナードが悪いのよ!? こんなところにまで来て、ギルドの依頼なんて引き受けてるから」
「ハァ……セオが俺達の名前で勝手に依頼状を受け取っちまったんだよ。当の本人はリュマとイル連れてどっかに行っちまったしな」
どこかやるせない様子でため息をつく青年レナードに対し、尚も突っ掛かるような発言を続けるユリス。
そんな二人の会話をよそに、目の前の雪原を泳ぐ巨大な鯨は、不気味な低い吠え声を響かせながら周囲に雪を巻き上げる。
そして、白い大地に巨大な軌跡を刻み込む標的を前に、二人はゆっくりと視線を向け、腰からそれぞれ紅蒼の双銃と漆黒の鞘に収まった刀を抜いた。
……しかし、
「ねぇ、あれ……」
「あぁ? どうかしたか?」
その直後、ふと背後を振り向いたユリスが、少し戸惑いながらもレナードを呼び止める。
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