力と過去

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意識を失ったゼウスは、不思議な夢を見た。 ――彼が憎い? 何処かから差し込む小さな光が、ゼウスに語りかける。 ――父を…母を殺され、憎い? 森に射す木漏れ日のように心地の良い光。 そして鳥がさえずるような美しい声。 夢の中でゼウスは静かに目を開けた。 ピカッと射し込む光にゼウスは小さく瞬きをし、光を遮るように手をかざす。 「だ…れ……?」 光にゼウスは小さく問いかける。 ――私の名は…セレナーデ 再び聞こえた声の先からは、うっすらと人の形が見えてきていた。 「セレナーデ…?」 ゼウスは光に照らされた声の持ち主を見ようと目を凝らす。 キラキラと輝く光に映し出されたのは、金色に輝く長い髪を持つ少女の姿だった。 「…君が…」 セレナーデなのかと聞く前に、少女は静かに頷いた。 「…ゼウス」 少女はまだ名前を聞いていないのに、知っていたかのようにゼウスの名前を呼び、微笑みかけた。 「セレナーデ…?」 まるで女神のような、そんな微笑みをするセレナーデにゼウスは言葉を失った。 「ゼウス…彼が憎い?」 ふと真顔に戻ったセレナーデはゼウスに再び問いかける。 「彼が憎い?」 「彼…って?」 「ゼウスの両親を殺した彼よ」 その言葉を聞いた瞬間、一気にゼウスの記憶が呼び戻された。 走馬灯のように、物凄い速さで駆け抜けて行く両親が死ぬまでの記憶。 「ぁ、あぁぁ…」 思い出したようにゼウスは小さく呻き、体をカタカタ振るわせ始めたのだった。
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