力と過去

9/9
前へ
/14ページ
次へ
「いやだ…いや、嫌…!!」 カタカタと震える体は次第に勢いを増していく。 「ゼウス…」 セレナーデは優しく声をかけるが、ゼウスには届いていない。 「嫌だ、僕は………ママ、パパッ…」 「ゼウス…ッ」 セレナーデはゆっくりと優しくゼウスの名を呼びながら、体を引き寄せ抱き締めた。 ゼウスの体がカタカタと揺れているため、セレナーデにもその振動が伝わって行く。 「ぁ……ぁあ…」 小さく拒絶するようにゼウスは首を振りながら、呻き声を漏らす。 「ゼウス…ゼウス…」 「ぁ……ッ………」 セレナーデがギュッとゼウスの体を強く抱き締めると、体の震えが少しずつ止まっていった。 「ゼウス、辛いのは分かるわ…」 「……………」 「でも、これが現実なの…」 「…………………」 ゼウスの震えが完全に止まると、ゼウスは静かに何も言わなくなってしまった。 「ゼウス…目をそらさないで…」 ギュッと強く抱き締めていたセレナーデの体が少しずつ消えていく。 「現実から目をそらさないで」 スゥッと音もなくセレナーデの体は消え、小さな光となった。 「……セレ、ナーデ…ッ」 ―大丈夫、私は貴方の側にいる…。 キラキラとした光はゆっくりとゼウスを包み込み、暫くしてから消えてしまった。 「……………」 呆然と立ちすくむゼウスの頬からスゥッと一筋の涙が伝い落ちる。 その涙を拭い、ふとゼウスは足元を見た。 足元にはキラキラとした何かが落ちている。 「………?」 ゆっくりそれを手に取り、ゼウスは眺めた。 キラキラと不思議な輝きを持つ石がついているネックレス。 「綺麗………」 ゼウスはそのネックレスを身に付けた。 そして石の部分をゆっくり握りしめ、目を閉じた。 ―大丈夫、私は貴方の側にいる…。 脳裏にセレナーデの言葉が浮かび、ゼウスは小さく息を吸った。 「…セレナーデ」 何かの合図かのようにゼウスはセレナーデの名前を呟くと、小さく微笑んだ…。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加