棘に満ちた月

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鈍く赤く光る月を背に、ゼウスは一人闇夜を歩いた。 行く当てもないまま、ただひたすら突き進んでいく。 「何が感情だ……」 ゼウスは遠くを見据えながら一人呟く。 「何が力だ……結局は全てを失うんじゃないか…」 そっとゼウスはネックレスを握り締めた。 「俺の側にいるなら、もう一度姿を見せてくれ…」 ブチッという音とともに、ゼウスはネックレスを首から千切り目の前に翳した。 「セレナーデ…お前は、俺が見た幻想でしかないのか?」 悲しい瞳でネックレスに付いている石を見つめたが、もう一度強く握り締めた。 「結局……何も無い、か」 フッと鼻で嘲る様に笑うと、ゼウスはネックレスを後ろへ投げた。 「さよならだ、俺の幻想」 ゼウスはそう呟き、また歩き出そうとした。 その時、ふと闇夜に相応しくない光が後ろから立ち込めた。 「ッ…な……んだ?」 振り向くと余りの眩しさに手を翳し、目を細めた。 「あれは……ネックレスの石?」 徐々に目が慣れ、空中に浮かびながら光を出している石を見た。 ―力が欲しい? 「…誰……だ…?」 突如頭に直接響く様な声がし、ゼウスは辺りを見回す。 ―貴方に大いなる力をあげる その声の主は見つからないが、声は話を続けた。 ―貴方は孤独…だからこそこの力は大いなるものとなる 「お前は……」 はっとした顔でゼウスは石を見つめた。 「セレナーデ…なのか?」 ゼウスは声に聞いたが、返事は返ってこなかった。 するとまた、声が響き渡った。 ―貴方が望むのなら、力を与えましょう。ただし貴方の感情が代償となる… 「俺の…感情?」 ―契約です…力の為の 感情と引き換えに得る大いなる力。 ゼウスは少し考えると顔を上げた。 「わかった、契約しよう」 ゼウスの瞳に迷いはなかった。
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