力と過去

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「ソフィー…大丈夫か?」 そっとサルトは手を差し伸べ、座り込んでいるソフィーを支えた。 「すまない…」 「いえ、あなたが悪いんじゃないわ…」 二人はそっと見つめ合い、抱き締めあった。 「力ではきっと…何も解決しませんもの…」 「…あぁ、そうだよな」 ギュッとお互いの存在を確かめるように抱き締めあう。 「ママ、パパ…」 すると扉の向こうから眠そうに目を擦っている男の子が現れた。 「あら、どうしたの?ゼウス」 ゼウスと呼ばれた男の子は、そっとソフィーとサルトの近くへ寄っていった。 ソフィーの洋服の裾をクイッと引っ張り、青みがかった紫の瞳を母親に向けた。 「僕、強くなる…」 その言葉にソフィーは驚いた。 「ゼウスどうしたの…?」 ソフィーはそっとゼウスの頬に手を当て、優しい瞳を向けた。 「僕は…力に勝つ優しさを持つんだ…」 その言葉にソフィーはそっとゼウスに笑いかけ、ゼウスを抱き上げた。 「そうね、ゼウス…」 ソフィーの腕の中でゆっくりと目を閉じてゆくゼウス。 「お休みなさいゼウス…良い夢を」 小さな寝息をたて始めたゼウスを見つめ、ソフィーは涙を流した。 「ソフィー…」 サルトはその涙をゆっくりと指で掬い上げ、頬に手を添えた。 「あなた…」 「あぁ…俺たちはきっと…」 涙を流すソフィーの悲しそうな顔に、サルトは申し訳なさそうに呟いた。 「すまない…」 添えられた手から感じるサルトの温もりに、ソフィーは目を閉じる。 「これで…最後なのね…」 「………すまない」 重い雰囲気が辺りを包み込む。 するとソフィーはゆっくりと目を開き、サルトに微笑んで見せた。 「あなたとならば…どこまでもご一緒に…」 その微笑みはこの世で一番美しく、この世で一番悲しいものだった…。
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