力と過去

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伸ばされた手は、ゼウスに触れることなく垂れ下がってゆく。 「…マ、…」 顔に付いた赤い液体はゆっくりとゼウスの頬を伝い、下へ下へと流れ落ちた。 「ゼ、…ゥ…ッ…」 ゲホッとソフィーは大量の赤い血を吐き、目を開いたまま床に倒れた。 「ぁ、あぁあ…」 ニヤリと笑うアジールの横で目を見開きながら声を漏らすサルト。 「あぁぁぁぁぁあッ!!」 悲しみ 怒り 憎しみ 様々な感情が一気にサルトを襲いかかる。 大声で叫びながら、サルトはソフィーの元へ向かおうとした。 「ッ、ソフィーッ!!!!ソフィーッ!!!!」 掴まれた腕を振りほどこうとするが、アジールのその手の力から逃れることはできない。 「離せッ!!離せぇぇ!!!!!」 怒りに狂ったサルトの表情。 アジールはサルトの様子を見ながら大きな声で笑った。 「ママ、…ッ?」 ゼウスはゆっくりと倒れたソフィーの元へ向かう。 真っ赤になってしまったソフィーの顔。 その横でゼウスはペタンと座り込んだ。 「ママ、ねぇ…ママ…?」 ゆっくり顔に触れ呼び掛けるが、ソフィーからの返事はない。 「…マ…マ……」 ゼウスの顔に付いた赤い液体は、顎まで流れるとゆっくりと落ちていった。 ピチャンッとゼウスのか細い手に落ちた赤い液体。 「マ……ッ…」 その液体はまるで、ゼウスが流した涙のようだった…。
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