一話 熊の心

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「生活安全課の泰久君だね」 「はい、署長。何かご用が」 「あるから呼んだんだ。こいつを読んでくれ。だが、他の奴らに内緒だ。いいな」 署長室から生活安全課に勤めている武藤泰久が出てきた。彼は直ぐさまトイレに向かう。そこでファイルを読みはじめた。 一ヶ月前。女子高生が歩いていた。顔には雀斑があり、内気なショートヘアである。友達も少なく、いつも一人で下校している。名は武藤裕子。 「裕子。いつもつまらなそうな顔をしてるけど、どうして」 友達の言葉が頭に過ぎっていた。友達の言う通りだ。鏡を見る自分の顔はつまらなそうな顔だ。そんな自分が嫌いだ。家に帰れば、親は水商売で忙しい。離婚した父の借金帰すために。たまに、男を家に連れ込む。明らかに母と寝る目的の男性を。
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