第一章 キリカ降臨

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 高校生である俺、護条正義(ごじょうまさよし)の朝は、用を足すことと、用を足しながら新聞を読むことから始まる。  ……俺は高校生である。  もちろんこの日もそう。  俺は目が覚めたらまずポストから新聞紙を抜き取り、それから優雅な足取りでトイレに向かう。入って便座に腰を落ち着かせると、『さて、今日の見出しは何かな……』と紳士的な口振りでもないがとりあえず呟いて新聞紙を拡げる。そして今。  俺は少しだけ喜んでいた。  新聞の一面をでかでかと飾る記事。その記事にはこう書かれている。 『放たれたジャスティス光線! ミラクルマン! またも人類の危機を救う!』  俺は軽く吹いた。 「ネーミングが酷い! 頼むから改名してくれ」  なんてことを洩らしため息を吐きつつ、すぐに諦めた。  日本中でこの両単語が既に定着しきっていることは、日本国民である俺は当然知っている。考えるだけ無駄と割り切り、俺は視線を横へずらす。  多少の時代錯誤を感じる見出しの隣りには、カラー写真が掲載されていた。  そこに写っているのは街のビル群と、ビル群を息だけで倒壊させられそうなほど巨大なトカゲの怪物。ごつごつと尖った皮膚と剥き出しになった歯が、写真からでも凶悪な迫力を感じさせる。  そしてその怪物と向かいあって立っている、人間のような巨大物体がもう一つ。  俺だった。  正確には、変身した後の俺。  その写真には俺がトカゲの怪物に向かって『ジャスティス光線』を放っている勇姿が、ベストアングルで捕らえられていた。  疲れるから極力出したくはなかった光線技をわざわざ出した甲斐があったと思えるほど、その写真に俺は格好よく写っている。  間違っても、怪物から逃げまどっているところを偶然撮られたとかではなく、これは事実。  俺は現役の高校一年生男子である。  身長だって容姿だって人間そのもの。衣食住も個人差うんぬんを差し引けば周囲と何ら遜色なく、『普段着はバトルスーツです』なんてこともなければ、道端で蠢いているダンゴ虫を発見しては『あ! ラッキー!』と摘んで食べることもしないし、今みたいに用を足すときはもちろん家のトイレで足す。  どこからどう見ても、ただの少年。  が、それは実の所世を忍ぶ仮の姿だったりする訳で。  俺の正体は白銀の超巨人『ミラクルマン』。  世界を危機から守ることが、俺の本業である。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加