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「…ねぇ何だよ、さっきの『さようなら』って…」
走って追いついてきた彼が俺の隣に並ぶようにして歩くと、俺の顔を覗き込んで尋ねた。
俺はチラリと一瞬、彼の顔を見たが、また正面に視線を戻す。
「…大切な言葉…」
俺が一言いうと、彼は相変わらず不思議そうな顔で俺を見ていた。
「…」
彼も視線を正面に向け、少し考えるそぶりをみせると、ぼそりと呟いた。
「…意味がわからん…」
その様子を見て、俺は小さく笑う。
「…だからさ、クロスケだっけ? そのネコも家を出て行くなら『さよなら』ぐらい言ってくれればよかったのになって話!」
「…バーカ!! ネコが喋れるわけねーだろっ」
彼も俺の冗談に合わせてケラケラと笑った。
笑った後に呟いた。
「…あぁ…でも、そうか…ほんとだ…ほんとに、一言ぐらい言ってくれてもよかったのに…」
そうやって小さな声で…
「さようなら」
俺はその言葉が好きだ。
その言葉は人間の優しさなのだ。
end...
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