pool

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「こんな所にいたのか…」 友人が笑って立っていた。 彼は所謂クラスの人気者というやつで、その屈託のない笑顔に皆が惹かれていた。 でもその笑顔、全部が全部、本当の笑顔でないことを俺だけは知っている。 「何してんの?」 「んー…」 俺は生返事をして再び水面に視線を向けた。 「帰らないの?」 彼は俺の隣まで来るとその場にしゃがみ込んで聞いた。 「…考え事してた…」 俺が一つ前の質問に答えると 「ふーん…」 と言って彼は水面に手を突っ込んだ。 「…最近、なかなかタイムが伸びてないみたいだし…調子悪いの?」 彼はゆっくりと気持ち良さそうに水面を掻き回しながら聞いた。 彼の腕を中心に水面が小さな音をたてて揺れるのを俺は眺めていた。 「…最近、泳ぐ意味ってあんのかなーって…」 俺は彼の隣にしゃがみ込み同じように水面に手を突っ込んで掻き回した。 「はっ?」 彼は教室では絶対にしない表情で俺を見た。 「…んーだから、俺が此処にいる意味ってあんのかなーって…」 俺は自分の手先を見ながら答えた。 「何それ…」 彼も目線を戻す。 「部活やめたいってこと?」 俺と同様に濡れている彼の髪、俺のそれより少し長く、色素の薄いやわらかい彼の髪が風に揺れた。 「……………………。」 暫くの沈黙。 相変わらず蝉は鳴くのをやめない。 「…んー…」 俺は手をとめて空を仰いだ。 夏の高い空に向かって入道雲が真っ直ぐにのびていた。 明日は雨だろうか… 夏の太陽が輝く眩しさに瞼が痛みだす。 「…んー…もっと根本的なことなんだ…」 俺は彼を見ずに言った。 「…俺は…俺はこの世界には必要のない人間なんだ…」 俺は知らなかった… 今、彼がどんな顔をしているのかを。
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