pool

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「例えばさ、世界に必要な人間ってのは歴史の教科書のるような世界を変えた人たちのことを言うんだよ… そしたら俺なんて、この世界にとっては無意味な存在だろ? 生きてる意味なんて全くないんだ…そしたら 「ばっかじゃねーっ!!」…」 彼は俺の言葉を遮ると、その場で立ち上がって俺を見下げた。 「お前、馬鹿だな。馬鹿だよ…世界ってのはな…」 彼は真っ直ぐに前を見据えた。 「世界ってのは一つじゃねーんだよっ」 足にグッと力を加えて彼は目の前の水へと踏み込んだ。 大きな音と共に水しぶきが上がり、それは俺の全身にかかる。 「ばっ!!冷てぇ…何して…るんだよ…」 俺は立ち上がって彼に文句を言おうとしたが、彼に真っ直ぐ見つめられ口をつぐむ。 「お前の知ってる世界にお前自身が必要なくても…」 彼が手を差し出すので俺はその手をとる。 彼を引き上げようとグッと腕と足に力を込める瞬間に彼が意地悪い笑顔を浮かべた。 あぁ、こいつはこんな顔もするのか… そんな考えと嫌な予感が頭に浮かんだ瞬間に身体は前のめりに傾く。 「っ!!」 気付いたときには俺の身体は水の中に投げ出されていた。 無意識に水面に向かってもがく度に水の蠢く感覚と気泡がうまれる感覚が伝わる。 「ぶはっげっほっごほっごほっ」 俺が水上に顔を出して噎せてると彼は 「わりぃっ」 と言って悪気のない顔で笑った。 「なぁ、お前の知ってる世界にお前自身が必要なくてもさ、俺の世界にはお前が必要なんだよっ」 彼は恥ずかしい言葉をさらりと言って背泳ぎを始める。 「えっ!?」 何だかこっちが恥ずかしい… 俺はそれをごまかすように彼に文句を言った。 「馬鹿やろっどーすんだよっこの制服っ!!」 彼はハハッと笑った。 蝉は相変わらず鳴き続けている。 おまえが鳴き続けることで誰かの世界の何かが変わるのかもしれない… 天気は快晴。 気温は上々。 制服なんてすぐに乾くだろう。 暫く君の世界に付き合うのも悪くはない。 さぁ、泳ごうか… end...
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