2/88key

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カコンとプルトップを持ち上げる音が辺りに響く。 受け取った缶は素手で持つには熱すぎて、俺はカーディガンの袖をのばし、缶を包むように持ち直す。 暖かい… 俺はもう一度、『無糖』の表示を眺める。 「…飲まないの?」 彼が自分の分を口に流し込みながら振り向いた。 「ん、暫くは…暖かいから…」 自然と笑みが浮かぶ。 「ねぇ、何で俺が甘いのダメって、知ってんの?」 正面に向き直した彼に問いかけた。 「…一緒に居れば、何となく?」 解るもんだろ、と彼は答えた。 俺は持っていた缶珈琲をポケットに入れる。 指先が再び冷たい外気に触れ、次にひんやりとした鍵盤に触れた。 今度は躊躇いもなく、旋律を刻みはじめる。 さっきの曲とは違う、ゆっくりとした曲。 マイナーな俺の好きな曲。 冷ややかな世界に流動的な旋律が割って入り込む。 「あぁ、俺の好きな曲…」 彼が呟くように言った。 「ねぇ、何で俺がこの曲、好きって知ってんの? 誰にも言ってないんだけど…」 彼は面白そうに聞いてきた。 「…何となく。」 解るよ… 俺は笑って彼と同じこたえを返した。 灰色の世界は相変わらず、俺達の生きている音を全て吸い込み、何処までも静けさを保っている。 「雪だ…」 彼がいつもより低い声で呟いた。 俺は旋律をとめることなく、窓の外を見る。 ちらちらと、やわらかい真っ白な雪が舞っていた。 ああ、もうすぐ世界の色は白銀へとかわっていく… 「もう、帰る?」 俺は彼の背に向かって問いかけた。 きっと彼はさっきの無表情でこう、こたえる。 「いや、もう少しだけ聞かせて…」 ほら、ね… 俺は優しく笑うと黙ってピアノを弾き続けた。 end...
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