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farewell
「さようなら」
俺はその言葉が好きだ。
誰かと、何かと別れるその時に交わす最後の言葉。
「さようなら…」
誰が書いたのか判らない黒板のすみに書かれた落書き…
いっきにそれを消しさると、白い粉が軽く宙に舞い上がる。
独特の臭いが鼻に付き、無意識に眉間にシワをよせた。
手についた少量の粉を払い落とし、自分の席まで戻る。
窓際の席は居心地がよく、窓外の晴天に目を向けると、雲が足早に流れていくのが見える。
風は軽々と雲を流すと、木々を力強く揺らした。
ザワザワとした木々の揺らめく音をきくと、何故だか自分の心すらも揺らめいている錯覚が起きる…
無性に人を不安にさせる音。
風は細く開けられた窓の隙間から教室に入り込むと、カーテンを靡かせ、俺の髪を乱し、机に広げられた日誌の頁をめっくた。
鬱陶しいそれに目を細め、窓をしめようと腰を浮かせて窓に手をかけた。
「ふあぁ、まだ帰らない?」
そう声を掛けられて、俺は声の主をチラリと見た。
さっきまで黙って雑誌を読んでいた彼は、飽きてしまったのか、欠伸をしながら聞いてきた。
「だから、先に帰っていいってば…」
俺は溜め息まじりに答えて、窓を閉める。
「真面目に日直の仕事なんかしてるのお前ぐらいだし…」
彼は笑いながら読んでいた雑誌を机の上に放り投げた。
「うるさいな…俺はお前と違って、真面目な優等生なんです…」
「嘘付けっ…」
彼はそう言って立ち上がると、俺の席までやって来た。
「あと日誌だけ?」
「ん…」
俺が適当に返事をすると、彼は俺の席の前の椅子を引いた。
俺に対して横向きに腰を下ろすと
「さっさと書いちゃえよ。」
と言いながら、椅子の背もたれに肘を置いた。
「言われなくても…じゃあ、邪魔すんなよ…」
俺はシャーペンを握ると、日誌を書き始めた。
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