farewell

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日誌にまず、日付と天気… 続いて欠席者を書き込んだ。 そこには静かな空間が広がっていた。 窓外の風の音がよく響く… 時計の針が一分を知らせる為にカチリと動いた。 俺が今の空間に、時間に心地よさを感じていると 「なぁ…」 彼が沈黙を破って声を掛けてきた。 「ん?」 適当に返事をする。 「お前ってさ…」 「何?」 俺は日誌を書く手を止めずに話の先を促した。 「お前ってさぁ、猫に似てるよね…」 「…は?」 彼の急な発言に俺は日誌を書く手を止め、彼の顔を見た。 彼は眠そうな眼差しをこちらに向け、薄く笑っている。 「いや、その真っ黒で柔らかそうな髪とか、吊りがちな目とか見てると昔に飼ってたネコを思い出して…」 ふふっと笑う彼は俺を見ていなかった。 確かに目線は俺に向けられいるが、彼は俺の面影の中にいるネコを見ていた。 「…あっそ…」 俺は軽く受け流し、日誌に目を戻す。 思ったことを直ぐに口にする彼のことだ… 今のも深く考えずに率直に感じたことを言ったのだろう。 こちら側も深く受け止めてはいけない。 「ほら、そういうところ…ちょっと冷たくてさ、自分のことしか考えてないところも…似てるよ…」 彼は俺から視線をはずし、窓の外に向けた。 相変わらず窓外の風は強く、ザワザワと木々の揺らめく音が聞こえる。 「そのネコさ、真っ黒なネコで俺、クロスケって名前をつけたんだ…」 俺はもう一度、彼の顔を見た。 「単純だろ?」 と、彼は笑った。
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