farewell

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「俺が小学生の時、野良猫だったクロを拾ってきたんだ…ずっと一緒に居てくれる唯一の家族だった…」 彼の声のトーンが下がり、ゆっくりとした動きで彼の目がもう一度、俺の顔を捉える。 彼を見ていた俺の視線とぶつかる。 ドクンッと心臓が揺らいた。 木々のざわめきが起こす錯覚ではなく、本当に心臓が波打つのを感じたのだ。 相変わらずうっすらと笑っている彼だったが、どこか寂しそうで、今にも泣いてしまうんじゃないかと思った。 「俺の家さ、母親いないし、一人っ子だったし、父親は仕事が忙しい人だし、家ではいつもクロと二人きりで…」 彼のこんな表情を見るのは初めてだったし、彼の昔話を聞くのも、彼の家庭の話を聞くのも初めてだった… 今まで彼が話さなかったということは、知られたくなかったであろう話で、俺が聞いていい話ではなっかたというこで… では、どうして彼は俺にこの話をするのだろうか… 色々と俺が考えてる間にも彼は話を進めた。 「でもさ、ある日、急にいなくなっちゃったんだよ…」 「え?」 急な話の展開に俺は思わず声が出た。 「だからさ、急にクロが居なくなっちゃたの!!」 彼は「んーっ」と声を漏らしながら両腕を上げ、座ったままの伸びをした。 その後、再び椅子の背もたれに肘をつき、頬杖をついた。 「ほんと、急にさ、何日も帰ってこなくて…俺、泣きながら近所中を探し回ったんだよ。そんで、気づいたら日が暮れてて、俺が迷子!!」 彼の声の調子はいつも通りに戻っていた。 そして、いつもの様に楽しそうに笑う。 「でも、親父が迎えに来てくれてた。俺が『クロが居なくなっちゃた!!』って泣いて騒いだら、親父、何て言ったと思う?『クロはネコの国に帰ったんだ。』だって!! いくら小学生でも、そんな話には騙されねーよなぁ…」 ああ、そうか… 俺は彼から目をそらし、再び日誌を書き始めた。 「後から思った。クロは死んだんだって…あの時はさ、何故か自分がクロに嫌われたからクロが出て行ったとか、いろんなこと考えたりしたけど…ネコって死ぬ間際に姿を消すって言うじやん?…ねぇ聞いてる!?」 彼は俺の机をバシバシと叩いた。
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